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[コーカサス] 小国寡民のまほろば:要人が静養に訪れるロシアの楽園

アルメニア, ジョージア(グルジア), ペルシャ・イラン, 土地・場所

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コーカサス(Caucasus)とはどんなところか、なかなかイメージが湧かないと思います。

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そこで昔の偉い学マルクス経済学者河上肇が晩年に記した短いエッセーに、手際のよい描写があるのでご紹介します。題名の「小国寡民」は、人口の少ない小国ほどの意味ですが、とても魅力的な場所として描かれています。簡単にポイントを抜き出すと次のごとくです。

  • 風景が雄大秀麗。富豪貴族の別荘やツァーの離宮があるロシアの楽園。
  • 多民族が雑居していて文化風俗がバラエティに富んでいる。
  • 服装が美しく食べ物がおいしい。
  • 美人が多い。
  • いたるところに温泉が湧いている。
  • 夏涼しく冬はさほど冷えこまない。

著者紹介

河上肇【かわかみはじめ】
経済学者,社会運動家。山口県出身。東大卒後,東大,学習院などの講師を歴任。資本主義社会の利己と利他の矛盾の解決を絶対的利他主義に求めて,1905年教職を辞し伊藤証信の無我苑にはいったが,その誤りを批判。1908年―1928年京大で経済学を講じ,マルクス経済学を考究,大学を去って大山郁夫らと労農党を結成。1932年共産党に入り《赤旗》編集に参加したが,逮捕され服役。1937年出獄後,隠棲し《自叙伝》を執筆,戦後再起を決してまもなく没した。主著《経済学大綱》《資本論入門》《貧乏物語》。(百科事典マイペディア

以下、引用文です(読みやすいように、原文にない改行を数か所入れてあります)。その続きに関連画像があります。

河上肇「小国寡民」(昭和20年9月)

私はそれについて、今ではソヴエット聯邦の一部となつてゐるコーカサスを思ひ浮べる。このコーカサスは、欧露と小亜細亜とを繋ぐ喉頸のやうなところで、南はトルコとペルシャに境を接し、東はカスピ海、西は黒海に面してゐる四十余万平方キロの土地で、その面積はほゞ日本の本土と同じであるが、(日本の本土は約三十八万平方キロ、戦前の総面積は六十七万五千平方キロであつた、)住民の数は僅に千二百万で、戦前の日本の総人口一億五百万に比ぶれば、殆ど十分の一に過ぎない。しかもそれが若干の自治州と七つの共和国に分れてゐるのである。小国寡民の地と称せざるを得ない。

しかもこのコーカサスは、第一次世界戦争以前の帝政時代には、到るところに富豪貴族の別荘があり、ツァーの離宮もあつて、富豪や貴族が冬は避寒に、夏は避暑に訪れたところで、クリミヤ地方とともに、ロシヤの楽園と称されてゐる地方である。

一般に園芸に適してをり、特に黒海沿岸では、非常にいゝ林檎や梨や桃を産するばかりか、バツーム市附近からは、蜜柑、レモン、橄欖の実などが盛んに産出され、葡萄も亦た沢山取れ、「新鮮な果物を食はうとする者は、必ずコーカサスへ行かなければならない」と称されてゐる。そればかりか、「絵を描かうとする者も、変つた人情風俗に接しようとする者も、湯治のためには病人も、みな必ずコーカサスへ行かなければならない」と称されてゐる。

それは第一に風景絶佳の地だからである。「コーカサス軍道の風光の雄大秀麗は、あまねく日本内地を周遊した筆者も、その比を求むるに苦しむ」と、正親町季董氏は言つてゐる。

第二にそこに様々な人種が住んでをり、しかもそれらの人種が各※(二の字点、1-2-22)風俗習慣を異にしてゐるからである。なかんづくゴールック人の服装は非常に美しいもので、男子は、羊の毛皮で作つた高い帽子を冠り、裾長の外套を着、その上から銀で飾つた細い帯をしめ、その帯には必ず短剣を挾んでゐる。女にはまた美人が多いので昔から有名である。自然コーカサスの山中には美しいロマンスの花が咲いたことも屡※(二の字点、1-2-22)あり、詩人プーシュキンや文豪トルストイなどは、よくかうしたロマンスに取材して、有名な作品を残してゐる。

第三に、そこには山間の到るところに温泉が出てをり、そして総ての温泉場は、以前のツァーの離宮や貴族たちの別荘と共に今ではみな民衆のものとなつてゐるからである。げにコーカサスこそは、老子の「小国寡民、其の食を甘しとし、其の服を美しとし、其の居に安んじ、其の俗を楽む」と言へるものの模型と謂つて差支あるまい。

私は宏荘な邸宅に住むよりも、小さな庵に住むのを好むと同じやうに、軍国主義、侵略主義一点張りの大国の一員たるよりも、かうした小国寡民の国の一員たることを、寧ろ望ましとする人間なので、これから先きの日本が、どうなるか知らないが、ともかく軍国主義が一朝にして崩壊し去る今日に際会して、特殊の喜びを感ぜざるを得ないのである。

あゝコーカサス! 京都の市民の数倍にも足らぬ人口から成る小さな/\共和国、冬暖かに夏涼しく、食甘くして服美しく、人各※(二の字点、1-2-22)その俗を楽しみその居に安んずる小国寡民のこの地に無名の一良民として晩年書斎の傍に一の東籬を営むことが出来たならば、地上における人生の清福これに越すものはなからうと思ふ。今私はスターリンやモロトフ等の偉大さよりも、窃に、これらの偉人によつて政治の行はれてゐる聯邦の片隅に、静かに余生を送りつゝあるであらう無名の逸民を羨むの情に耐へ得ない。

<記事引用終わり>

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