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[アメリカ] “Have Yourself A Merry Little Christmas” Luther Vandross とクリスマスに習合した北方民俗

2017-12-25ソウル・R&B, ミュージック

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ルーサー・ヴァンドロス

亡くなってしまったが、とても歌のうまい人だった。性格のよさが物腰の一つ一つに滲み出ているような人でもあった。

フィーチャー曲:”Have Yourself A Merry Little Christmas”

この曲の数多くあるバージョンのなかで個人的ベストはこの録音。原曲は映画『若草の頃』(Meet Me in St. Louis)のクライマックスで静かに歌われる挿入歌。以下、wiki記事の引用。

“Have Yourself a Merry Little Christmas”, a song written by Hugh Martin and Ralph Blane, was introduced by Judy Garland in the 1944 MGM musical Meet Me in St. Louis. Frank Sinatra later recorded a version with modified lyrics. In 2007, ASCAP ranked “Have Yourself a Merry Little Christmas” the third most performed Christmas song, during the preceding five years, that had been written by ASCAP members. In 2004 it finished at No. 76 in AFI’s 100 Years…100 Songs rankings of the top tunes in American cinema.

ルーサー・ヴァンドロス公式サイト

歌詞

Have yourself a merry little Christmas
Let your heart be light
From now on your troubles will be out of sight

Have yourself a merry little Christmas
Make the Yuletide gay
From now on your troubles will be miles away

Here we are as in olden days
Happy golden days of yore
Faithful friends who are dear to us
Gather near to us once more

Through the years we all will be together
If the fates allow
Hang a shining star upon the highest place

So have yourself a merry little Christmas
Have yourself a merry little Christmas
So have yourself a merry little Christmas


この歌詞、最後に近い部分の

Through the years we all will be together
If the fates allow
Hang a shining star upon the highest place

が改作されているらしい。フランク・シナトラが作詞したヒュー・マーティンに電話してきて、明るい雰囲気のクリスマス・アルバムにしたいから、歌詞を元気の出る雰囲気に変えてくれないかと依頼した。天下のシナトラのリクエストを断るわけにもいかず、マーティンは書き換えに応じた。オリジナルの歌詞は以下のようなものだ。

Someday soon, we all will be together.
If the fates allow.
Until then, we’ll have to muddle through, somehow.

改作した歌詞は「ずっと一緒にいれるね、運命が許すなら。クリスマスツリーの一番高い枝にきらきら星を飾りましょう」といささか能天気な歌詞になっている。オリジナルは「もうすぐ一緒になれるね、運命が許すなら。それまでは何とかやっていきましょう」と現状の暗さを切り抜けようという希望の歌詞だったわけだ。こういう改作はコマーシャリズムの浸透したアメリカではよくある話だ。

山下達郎歌唱バージョン

Yuletideの意味

歌詞に出てくる “Make the Yuletide gay” は「ユールタイドを楽しく過ごす」ほどの意味だが、このユールタイドとは何か?

ユールタイド(Yuletide)とは北欧の冬至祭の期間を指すイギリス英語だ。単語に含まれるtideは潮の満ち引きではなく期間を指す(語源はゲルマン祖語のtidiz=division of time )。

christmastideといえば、christmas seasonのことだ。キリスト教本来の暦に従えば、イブ明けの夜明けから1月5日までの12日間の祝祭期間である。

ユールタイドは特にアメリカ人には古めかしく響くことばだろう。だから、その後のヴァースでは “Happy golden days of yore” として、わざと yesterday の古語である yore が使われている。golden days そのものも yesterdays を含意するので二重の強調になっていて、現在の境遇が相当に不本意であることを際立たせる。

クリスマスはキリスト教オリジナルではない

クリスマスはキリスト教が外部の祭礼(ミトラス教やローマのサートゥルナーリア祭など冬至の祭礼)に起源を持つといわれる。クリスマスがカトリック教会によってゲルマン民族に伝わっていったとき、彼ら北方民族の習俗が混淆したのだろう。

参考記事

ユール(wiki)

スカンディナヴィアのキリスト教化(wiki)

 

キリスト教のゲルマン化?

ヨーロッパの歴史を大ざっぱに捉えれば、砂漠生まれのキリスト教がローマ教会を本拠に、南のラテン人(ロマンス語派)、北方のゲルマン人(ゲルマン語派)、スラブ人(スラブ語派)を改宗させ、宗教的統一を成し遂げていく歴史だ。差し当たって、その揺り戻しで現代は世俗化が進んでいる。

ヨーロッパ全域のキリスト教化(christianization)が成し遂げられるまで、2世紀から19世紀まで1700年もの歳月が経過している。

ヨーロッパのキリスト教化:改宗年代が色別に示されている。

ゲルマン人(ゲルマン語派)

ゲルマン人には独自の宗教があり、その抵抗力が根強かったがゆえに、長い混淆期→変成期という過程が必要だったのだろう。混淆(syncretism)と一口にいっても、生い立ちも発展経路も違う2つの宗教思想が水とウイスキーのように見事に混ざり合う(ブレンドされる)わけではない。しばらく並行しつつ、お互い反発しつつも影響し合い、最終的にキリスト教はゲルマン的にアレンジされた上で受容されたと考えるのが妥当だろう。

そもそもローマ教会は深謀遠慮の使い手で、王や首長など上層階級の懐柔から始めたというから、民衆レベルではその威圧性、強制性への抵抗が強かった可能性が高い。

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ゲルマン人はゲルマン語派の言語を母語とする人々。スカンジナビア諸国、アイスランド、イングランド、ドイツ、オランダ、ベルギー、オーストリア、スイス、ルクセンブルグなど。 

北欧神話などのゲルマン神話

古い伝承は詩のかたちで残されており、アイスランドで発見された古エッダ(Elder Edda/Poetic Edda)、新エッダ(Younger Edda/Prose Edda)などが古代ゲルマン人の基礎研究資料。いずれも古ノルド語(Old Norse)で記されている。

特に重要視されている文献が、古エッダの冒頭に置かれている巫女の予言(アイスランド語でVöluspá)。

『巫女の予言』(みこのよげん、古ノルド語: Vǫluspá、Vǫlspá、Vǫlospá、ヴォルスパー、アイスランド語: Völuspá、ヴェルスパー)とは、『古エッダ』の最初に置かれている、エッダ詩の中でも最もよく知られた一節である。

ヴォルヴァ(巫女、と訳される)がオーディンに語りかけるという形で、世界の創造から終末の到来、世界の再生までを語る。北欧神話を研究する上で最も重要な資料の一つとみなされている。

19世紀のデンマーク画家ローレンツ・フローリク(Lorenz Frølich)が描いた巫女ヴォルヴァ(Völva)、主神オーディン(Odin)、神獣スレイプニル(Sleipnir)、妖精ヘルハウンド(Helhound )

 

 

 

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